「雲の王」(川端裕人)

お天気文学、いや気象エンターテインメント

「雲の王」(川端裕人)集英社文庫

気象台に勤務する美晴は、
雨の到来を匂いで感知できる。
それは彼女が
天気を読む能力を持つ一族の
末裔であることを意味していた。
美晴の能力は次第に開花し、
彼女は特別研究チームへの
参加を任命される…。

面白すぎて
一気に読んでしまいました。
まさにお天気文学、
いや気象エンターテインメント。
本書の魅力は次の3点と考えます。

魅力①科学と呪術の組み合わせの妙
気象学の知識が
ふんだんに盛り込まれています。
「マッデン・ジュリアン振動」などという、
たしかNHKスペシャル巨大災害で
出ていた超マニアックな用語まで
登場するほど科学的知見に
裏付けされた舞台設定です。
その一方で「雨の匂いをかげる」
「水蒸気の流れが見える」などの、
特異能力を持った一族の存在など、
呪術的要素も
大きな柱となっているのです。
科学的なものと非科学的なものが
渾然一体となり、
そのすべてがリアルに
眼前に迫って来ます。

魅力②濃いキャラクター設定
登場人物すべて濃いのです。
主人公美晴は離婚して
小学生の息子と2人暮らしのお母さん
(SF作品で少年少女を
主人公にしないあたりがいい)。
ストーリーを追うごとに
「天気読み」の能力が高まっていきます。
その息子・楓大。
この少年もやはり能力者。
要所要所で活躍しています。
美晴の兄・由宇。
とぼけた研究者で胡散臭い組織の一員。
物語の中盤からは、
この由宇がらみの騒動で盛り上がります。
その他、気象台の同僚・高崎と黒木。
富豪で胡散臭い組織の主宰・アーチー。
能力者の一族の長・リク婆とユキ婆。
みんな濃い人ばかりです。

魅力③時空を越えた壮大な設定
美晴は終始大忙しです。
九州諫早に飛んだかと思うと
南房の山中へ、
さらには熱帯インドシナ半島。
美晴の感じるビジョンは
江戸時代や太平洋戦争末期。
時間と空間をこえて、
ストーリーは
縦横無尽に広がっていきます。

巻末の解説を読むと、
著者は高校生の頃、
地学部天文班に所属、
テレビ局の記者時代には
気象庁を担当と、
気象学の造詣は
深いものがあったとのこと。
納得しました。

この気象エンタメノベル、
中学校2年理科の後半で
「天気の変化」について学習しますので、
中学校3年生に薦めたいと思います。

(2019.6.11)

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